前回のコラムでは、「暑熱順化(しょねつじゅんか)── 身体を夏仕様にアップデートする方法をお伝えしました。
計画的に汗をかく練習を重ねた身体は、確かに暑さへの耐性が高まります。

前回の「暑熱順化」についてのコラムはこちら

暑さに耐えるより、 “暑さに慣れる” 熱中症対策のカギ ”暑熱順化”

しかし、どれほど備えが整っていても、猛暑の前では誰もが熱中症のリスクを抱えています。

202559月の熱中症による救急搬送数が初めて10万件を超え、命を落とす方も後を絶ちません。

「自分には関係ない」── その思い込みが、最も危険なサインかもしれません。
このコラムでは、第1回として「熱中症の正体」と「今日からできる予防と早期発見」をお伝えします。

 

── Section 01

熱中症とは何か。 身体の中で何が起きているのか?

人間の身体には、体温を3637℃に保つ「体温調節システム」が備わっています。
暑さを感じると、皮膚の血流を増やして熱を放出し、汗をかいてその蒸発熱で冷やす── 精巧なエアコンのような仕組みです。

ところが、このシステムには限界があります。

MECHANISM -熱中症が起きる3つの引き金

①高温・多湿な環境

気温が高く湿度も高いと、朝が蒸発しにくくなり体温が下がらない。

 

②運動・労働による体内の熱産生

激しい活動では体内で大量の熱が生まれる。

 

③脱水による調整機能の低下

水分が不足すると血液量が減り、汗も十分にかけなくなる。

 

この3つが重なったとき、体の「冷やす能力」が「作られる熱」に追いつかなくなります。その結果、深部体温が急激に上昇し、細胞・臓器にダメージが及ぶ

ーそれが熱中症の正体です。

熱中症には重症度によって3つの段階があります。

  • 度(軽症):めまい、立ちくらみ、こむら返り(足がつる)、大量の発汗
  • 度(中等症):頭痛、吐き気、倦怠感、体がぐったりする
  • 度(重症):意識障害、けいれん、高体温(40℃以上)。命に関わる段階

怖いのは、度から度への進行が、わずか数十分で起こりうることです。

 

── Section 02

「私は大丈夫」という落とし穴。 リスクが高いのは、あなたかもしれない。

熱中症の恐ろしさは、「なりやすい人」が、自分ではそれに気づきにくいことにあります。

CAUTION -こんな方は特に注意が必要です

⚪︎65歳以上の方

皮膚の温度センサーも、喉の渇きを感じる機能も、加齢と共に低下します。
「暑くない」「水は要らない」と感じていても、実際は脱水が進んでいることがあります。

⚪︎小さなお子さん

体温調整機能が未発達で、外気温の影響を受けやすい。地面に近い低い位置にいるため、照り返しの熱を受けやすいという特徴もあります。

⚪︎肥満傾向の方

体脂肪は熱を蓄えやすく、放熱が追いつきにくいため熱中症リスクが高まります。

⚪︎持病のある方(心疾患・糖尿病・腎臓病など)

体温調整や水分バランスの乱れが、持病の悪化につながることがあります。

⚪︎久しぶりに屋外へ出た方

前回コラムの「暑熱順化」が不十分な状態で突然暑さにさらされると、体がついていけません。

さらに見落とされ月なのが、お薬の影響です。

PHARMACY NOTE -熱と熱中症の意外な関係

以下のお薬を服用中の方は、熱中症リスクが通常よりも高くなる場合があります。

  • 利尿薬(高血圧・心不全の薬など):尿の量が増えて脱水になりやすい。
  • 抗コリン薬(頻尿・過活動膀胱の薬、医薬など):発汗を抑制するため体温が下がりにくい。
  • 抗ヒスタミン薬(アレルギーの薬、花粉症薬など):同様に発汗を抑え、眠気で暑さへの感覚が鈍ることも。
  • 向精神薬・抗うつ薬:体温調整中枢に影響し、熱の産生が増えることがある。

「夏は食欲がなくて食事が取れないから、薬は休もう」は非常に危険です。
自己判断で薬を中断せず、気になることがあれば薬剤師。医師にご相談ください。

── Section 03

今日からできる、シンプルな熱中症予防。

熱中症予防は、難しいことではありません。大切なのは「毎日少しずつ」の積み重ねです。

MICRO STEP01 -水分補給は「ルーティン化」がコツ

のどが可愛く前に飲む – これが鉄則ですが、忙しい日常では忘れがちです。

水分補給のタイミングを決めておくことです。おすすめは、

  • 起床後
  • 食事の際に
  • 外出後に
  • 入浴前後に
  • トイレの後に
  • 就寝前に

といったタイミングです。

 

外から帰宅したら手を洗うのと同じ同じように決めておくと自然と習慣化します。

 

例えば「トイレに行ったら、コップ1杯(150ml)の水を飲む」と決めること。

量が多いと感じる方は、一口でもOK。「毎回、面倒だな」と感じるかもしれませんが、意外とすぐなれるものです。そのうち、特別意識しなくても自然と水分補給のリズムができます。

 

普段の水分補給は麦茶をお勧めします。

「熱中症対策には毎日スポーツドリンクや経口補水液を飲むべき」と思っている方もいいですが、これは誤解です。特にOS-1などの経口補水液は「脱水時の医療用飲料」です。塩分が多く、高血圧・心不全の方が日常的に飲むと体調を悪化させる恐れがあります。

スポーツドリンクなどは、当分も多く入っているので、糖尿病の方などは血糖値が簡単に上がってしまいます。

飲み物で血糖値が上がった事例として、過去に「いろはす」のみかん味を毎日飲んでいたケースを経験しました。

「健康に良い水」と思い毎日飲んでいたところ、血糖値が上がり糖尿病と指摘され、薬の服用を開始。よくよく話を伺うと、疑わしいのは「いろはす みかん味」の飲みすぎ。やめるようにアドバイスしたところ、血糖値は速やかに下がり、薬も必要なくなった、というケースもあります。

 

他にも類似のケースは多々あるので、これからの時期は甘い飲み物を一気に飲みすぎないよう注意してください。

 

食事の時は冷たいお味噌汁を添えると、適度な塩分と水分が摂れる素晴らしい熱中症対策になります。

 

「水分」というと、水やお茶などでないとダメと考える方も多いですが、お味噌汁やスープといった液体も含めて考えて構いません。

気分を変えるために、ジュースや炭酸水などを用いてもOK。ただし、重ねてになりますが、糖尿病の方のジュース摂取はできるだけ控えて下さい。とりあえず、毎日飲むのはやめましょう。

 

「コーヒーを沢山飲む」という方も多いですが、コーヒーや濃い緑茶などカフェインを多く含む飲み物ばかり摂取していると、カフェインの利尿効果により体内の水分が尿として排泄され、結果的に体内は脱水傾向になることがあります。

もちろん、飲んで構わないのですが、其ればかりではなくカフェインを含まないものも摂取してくださいね。

 

以上の点から、夏の水分補給は麦茶がお勧めです。

糖分、カフェインを含まず、ミネラルを多く含んでいるため、脱水予防には最適なのが昔ながらの麦茶なのです。冷たく冷えた麦茶は後味もスッキリで、気分もさっぱりします。

 

ただし、麦茶は傷みやすいので、冷蔵庫に保管するか、開封後は早めに飲んでください。

 

念のために言っておきますが、ビール類は水分とはカウントしません。

アルコールは利尿作用があり、また体内でアルコールを分解する過程でも水分を必要としますので、結果的に脱水傾向になります。「毎日ビール飲んでるから大丈夫!」とはなりませんので、念のため。

MICRO STEP02 -「爪もみ」3秒でわかる隠れ脱水チェック
「のどが渇いた」と感じた時には、すでに脱水は始まっています。道具不要でいつでもできるセルフチェックをご紹介します。

手の親指の爪を、反対の指でギュッとつまむ

つままれた爪が白くなる

指をパッと離して、元のピンク色に戻るまでの時間を計る

 

元の色に戻るまでに 3秒以上」かかったら、隠れ脱水のサインです。

テレビを見ている時、信号待ちの時など、思い出した時にサッと確認してみてください。

 

また、トイレでの排尿時には「尿の色」を確認してください。尿の色が濃くなっている場合、それは脱水傾向のサインです。速やかに水分を補給するようにしてください。

BRAIN HACK -知って驚き ・ 「牛乳」が、熱中症を防ぐ。

暑さに強い身体をつくるには運動後の水分補給が大切ですが、何を飲むかで効果が変わります。

 

実は、運動や入浴などで汗をかいた後30分以内にコップ12杯の牛乳を飲むと、血液量が増加して体熱を放出する能力がアップすることが医学研究で明らかになっています。

 

「夏バテ予防に牛乳?」と意外に思うかもしれませんが、糖質とたんぱく質が豊富な牛乳は、暑熱順化(身体を夏仕様にする)を後押しする理にかなった飲み物なのです。

 

ぜひ「運動後のご褒美」として取り入れてみてください。

熱中症は「知識」だけで防げる部分が大きい疾患です。
「怖い」ではなく「知ってる」が、あなたと家族を守ります。

次回、熱中症の「危険なサイン」と、正しい応急処置。

 

いざという時に慌てないために。次回は、見逃してはいけない症状の見分け方と、その場ですぐできる対処法をお届けします。

 

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