はじめに
「台風が近づくと、なんだか頭が重い」「雨が降る前になると、頭痛やだるさを感じる」——

そんな経験はありませんか。
実は、気のせいではなく、気圧の変化が体に影響していることが少しずつわかってきています。
実際に、気圧の変化と頭痛の関係を示すデータもあります。
大正製薬が2022年の台風14号(ナンマドル)通過時に集めた41万件以上の頭痛記録を分析したところ、台風の接近とともに頭痛の記録数が増加し、その増加エリアが台風の進路に沿って西日本から東日本へと移り変わる様子が確認されたと報告されています。さらに、気圧が下がるときだけでなく、台風通過後に気圧が急激に上がるタイミングでも頭痛記録が増える傾向が見られたということです。
このように、天気や気圧の変化によって体調が崩れることを「気象病」、その中でも痛みの症状を特に「天気痛」と呼んでいます。
この記事では、なぜ台風や低気圧で頭痛が起こるのか、そのメカニズムから、ご家庭でできる対処法、薬局で選べる薬の考え方、そして受診の目安まで、薬剤師の視点でわかりやすくお伝えします。
なお、日本気象協会(tenki.jp)では、地域ごとの気圧変化と体調への影響度を予報する「気圧予報」を毎日発表しています。福岡を対象に確認できた範囲(2026年9月9日発表分、本稿更新時点で判明している最長の予報)では、次のような見通しが示されていました。日々の体調管理の参考にしてみてください。
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日付 |
曜日 |
気圧の動き |
影響度 |
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9月10日 |
木 |
気圧が上昇 |
中 |
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9月11日 |
金 |
気圧が上昇 |
中 |
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9月12日 |
土 |
気圧が下降 |
小 |
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9月13日 |
日 |
気圧が下降 |
小 |
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9月14日 |
月 |
気圧が下降 |
中 |
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9月15日 |
火 |
気圧が下降 |
小 |
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9月16日 |
水 |
気圧が下降 |
小 |
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9月17日 |
木 |
気圧が下降 |
小 |
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9月18日 |
金 |
気圧が上昇 |
中 |
出典: 福岡市の気圧予報|日本気象協会 tenki.jp、気圧予報(10日間)|日本気象協会 tenki.jp のデータをもとに作成。予報は今後更新される場合があります。
① 台風や低気圧で頭痛が起こるのはなぜ?
気圧の変化がきっかけで体調不良(頭痛・めまい・肩こり・だるさなど)が起こることを「気象病」、その中でも痛みに関する症状を特に「天気痛」と呼ぶことがあります(どちらも正式な医学用語ではなく、通称として使われている言葉です)。
台風や低気圧の接近時に頭痛を訴える方が多いのは、気圧の変化が体に何らかの形で影響を与えているためと考えられています。
先ほどご紹介した大正製薬の分析データでは、鹿児島市で気圧が47.8hPa低下したのち、通過後に47.6hPa上昇したケースなど、短期間での大きな気圧変動が観測されており、こうした急激な変化が頭痛記録の増加と関連していた可能性が示されています。

② 気圧の変化を、体はどう感じているのでしょうか
なぜ気圧が変わるだけで頭痛が起こるのか——
このメカニズムは、今も研究が続けられている分野です。長年この研究に取り組んでいる愛知医科大学の佐藤純客員教授によると、主に次の2つの経路が関わっていると考えられています。
経路1:内耳から自律神経へ
耳の奥にある「内耳(ないじ)」は、音を聞くだけでなく、体のバランスを保つセンサーとしての役割も担っています。気圧が変化すると内耳がそれを感じ取り、その情報が「前庭神経(ぜんていしんけい)」という神経を通じて脳に伝わります。
すると脳がこれをストレスと捉え、体調を整えている「自律神経(じりつしんけい)」のバランスが乱れてしまいます。特に、体を緊張させる方向に働く「交感神経」が優位になると血管が収縮し、痛みに関わる物質が生じやすくなって、頭痛につながると考えられています。
経路2:交感神経が痛みの神経に直接作用
もともと片頭痛や慢性的な痛みをお持ちの方の場合、交感神経が痛みを感じる神経に直接働きかけることで、症状が悪化することもあると指摘されています。
佐藤教授の研究では、こうした気圧の変化に敏感な方(潜在的な患者)は1,000万人以上にのぼると推定されており、女性は男性の3〜4倍多いともいわれています。
※このメカニズムは、動物実験や臨床研究によって少しずつ明らかになってきている分野で、今も研究が続けられています。感じ方には個人差が大きいので、「自分だけつらいのかな」と不安に思う必要はありません。

また、冷暖房が完備された環境で過ごす時間が長くなり、生活リズムが乱れやすい現代の暮らし方も、自律神経が気象の変化に対応しにくくなる一因ではないかとも指摘されています。
③ 頭痛だけではない、「気象病」のさまざまな症状
気象病では、頭痛以外にもめまい、体のだるさ(倦怠感)、肩こりなど、自律神経の乱れに関連するとされるさまざまな不調が現れることがあります。症状の出方には個人差があり、いくつかの症状が同時に現れることも少なくありません。「なんとなく調子が悪いな」と感じたときは、気圧の変化も一因かもしれません。
④ 頭痛がつらいときに、ご家庭でできること
気圧の変化による頭痛は、日々の過ごし方を少し工夫するだけで、和らげられることがあります。
休息をとる 無理をせず、体を休める時間をつくりましょう。
十分な睡眠 睡眠不足は自律神経の乱れを助長しやすいため、規則正しい睡眠を心がけましょう。
生活リズムを整える 食事や活動の時間をなるべく一定に保つことが、自律神経の安定につながるとされています。
こまめな水分補給 台風シーズンは汗をかいたり食欲が落ちたりして、気づかないうちに水分不足(脱水)になりやすい時期でもあります。水分補給は体調管理の基本として、意識してみてください。
⑤ 薬はどう選べばいい?
ここまでの工夫でも改善しない頭痛には、市販薬を上手に取り入れるのも一つの方法です。
ただし頭痛と一言で言っても、片頭痛や緊張型頭痛などいくつかのタイプがあり、体質や持病、他に服用中の薬によって、合う薬は人それぞれ異なります。「気圧による頭痛にはこれが効く」と決めつけず、ご自身の状態に合わせて選ぶことが大切です。迷ったときは、どうぞお気軽に薬剤師にご相談ください。
アセトアミノフェン
比較的作用が穏やかで、胃への負担が少ないなどの理由で選ばれることが多い成分です。2023年11月には、医療用のアセトアミノフェン製剤について、厚生労働省による使用上の注意の見直しが行われました。従来「禁忌(使ってはいけない)」とされていた重篤な腎障害のある患者などについても、国内外の文献やガイドラインの検証を踏まえ、注意深く経過を見ながらであれば使用を検討できる対象に変更されるなど、内容が更新されています。市販薬であっても、持病がある方や他の薬を服用中の方は、購入前に薬剤師にひと声かけていただけると安心です。
痛み止め(NSAIDs):イブプロフェン、ロキソプロフェンなど
炎症を抑える作用も持つため、痛みへの効果を実感しやすい成分です。一方で、使用にあたってはいくつか気をつけたい点があります。
市販のイブプロフェン製剤の使用上の注意では、服用は4時間以上の間隔をあけて1日3回までとされ、「長期連用しないこと」、5〜6回服用しても症状が良くならない場合は服用をやめて医師に相談することが求められています。また、妊娠・授乳中の方、高齢の方、腎臓病と診断されている方などは、服用前に医師・薬剤師への相談が必要とされています。
腎臓への影響について少し補足しますと、いわゆる「痛み止め」と呼ばれる薬は、体内でプロスタグランジンという物質の産生を抑えることで痛みや炎症を抑える一方、このプロスタグランジンには腎臓の血流を保つ役割もあります。
そのため、痛み止めの作用によって腎臓の血流を保つ働きが弱まり、腎臓への負担につながることがあります。特に、高齢の方、脱水状態にある方、もともと腎機能が低下している方、高血圧・糖尿病・心不全のある方、利尿薬や特定の血圧を下げる薬(RAS阻害薬など)を服用中の方は注意が必要とされ、脱水が起こりやすい時期(発汗が増える時期など)はリスクが高まるとも指摘されています。台風接近時は発汗や食欲不振で水分不足になりやすいため、痛み止めを服用する際は水分補給を意識しつつ、用法・用量を必ず守ることが大切です。尿量の減少、体のむくみ、息苦しさ、だるさ、吐き気・嘔吐、血尿・尿の泡立ち(蛋白尿)といった症状が現れた場合は、腎臓への影響が疑われるサインですので、服用を中止し、速やかに医師の診察を受けてください。
漢方薬
五苓散は、口渇(のどの渇き)や尿量減少、むくみ、めまい、吐き気・嘔吐、頭痛といった症状に用いられる漢方薬で、効能・効果に頭痛も含まれています。ほかにも呉茱萸湯や苓桂朮甘湯などが使われることがあります。漢方薬は体質(いわゆる「証」)や症状を見極めたうえで選ぶことが基本ですので、ご自身に合いそうか、他の薬との飲み合わせも含め、薬剤師にご相談のうえで選んでいただくと安心です。

⑥ 頭痛薬の使いすぎにも注意
頭痛がつらいと、痛みが出る前に予防的に薬を飲んだり、鎮痛薬を頻繁に使い続けたりしたくなるかもしれません。ですがそれが、かえって頭痛を悪化させてしまう「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」を招くことがあります。
目安として、カフェインを含む鎮痛薬は月10日以上、カフェインを含まないアセトアミノフェンやロキソニンのような痛み止めなどは、月15日以上使用している状態が続く場合は注意が必要とされています。さらに、1日4時間以上続く頭痛が月15日以上(年間180日以上)に及ぶ場合は、慢性連日性頭痛と判断されることもあります。「最近、薬を飲む回数が増えたかも」と感じたら、自己判断で使用を続けず、早めに医師や薬剤師にご相談ください。
⑦ こんな頭痛は要注意です すぐに医療機関を受診してください
セルフケアや市販薬で様子を見てよい頭痛がある一方で、次のような場合はすぐに医療機関を受診してください。
・今までに経験したことのない、突然の激しい頭痛
・しびれや麻痺、言葉が出にくいといった神経症状、高熱を伴う頭痛
・市販薬を用法通り5〜6回服用しても症状が良くならない頭痛
・尿量の減少、むくみ、だるさ、血尿・蛋白尿など、腎臓への影響が疑われる症状を伴う場合
これらは、単なる気象病ではなく、他の病気が隠れているサインかもしれません。
「いつもと違う」と感じたときは、我慢せず医療機関を受診しましょう。
⑧ よくある質問(FAQ)
台風が近づくと頭痛がするのはなぜ?
気圧の変化を内耳が感知し、自律神経のバランスが乱れることで頭痛が起こると考えられています。実際に、台風接近時に頭痛の記録数が増加するというデータも報告されています。
低気圧頭痛に市販薬は使える?
アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの市販の鎮痛薬が選択肢になりますが、頭痛のタイプや体質、持病によって合う薬は異なります。迷ったときは、どうぞ薬剤師にご相談ください。
五苓散は気圧による頭痛に使える?
五苓散はめまいや頭痛にも用いられる漢方薬です。漢方薬は体質に合わせて選ぶことが大切ですので、薬剤師にご相談のうえでご検討ください。
頭痛薬はどのくらいの頻度で飲んでも大丈夫?
カフェイン含有の鎮痛薬は月10日以上、それ以外は月15日以上の使用が続くと、かえって頭痛を悪化させる「薬剤性頭痛」のリスクが指摘されています。頻繁に薬に頼っている場合は、早めにご相談ください。
頭痛がどの程度なら病院を受診すべき?
今までにない激しい頭痛、しびれ・発熱などを伴う頭痛、市販薬を用法通り使っても改善しない頭痛がある場合は、医療機関を受診してください。
おわりに
台風や低気圧による頭痛は、体質や自律神経の状態によって、誰にでも起こりうるものです。「気のせいかな」と我慢せず、ご自身に合ったセルフケアや薬とうまく付き合いながら、季節の変わり目を乗り切っていただければと思います。気になる症状や薬の選び方について迷うことがあれば、私たち凛調剤薬局(苅田町)に、いつでもお気軽にご相談ください。

参考情報

