こんにちは。凜調剤薬局です。

楽しいお盆休みが明け、通常の生活リズムに戻る時期になりました。
しかし、毎年この時期は、「なんだか胃が重苦しい」「食欲がわかない」「少し食べるだけでお腹がいっぱいになる」といったお腹の不調のご相談を数多く伺います。

こうした不調に対し「夏の暑さで胃が弱ってしまった」と自己判断してしまいがちですが、医学的には暑さそのものだけで胃の機能が低下するわけではありません。実際には、お盆休み中の不規則な生活習慣や食生活の変化(食べ過ぎ、脂っこい食事、飲酒、食事時間の乱れなど)が重なることで、胃の働きに乱れが生じていると考えられます。

今回は2回に渡って、「胃もたれ」をテーマにお話ししていきます。

前編として、お盆明けに起こりやすい胃もたれの「医学的なメカニズム」を分かりやすく紐解いていきます。原因を正しく理解し、胃を立て直すための一歩を踏み出しましょう。

そもそも「胃もたれ」とは何?

日常的に感じる「胃もたれ」ですが、これは特定の病名ではなく「症状」を指す言葉です。
医学的には、みぞおちを中心とする上腹部(胃のあたり)に生じる不快な症状の総称であり、「ディスペプシア症状」とも呼ばれます。

ディスペプシアの主な症状には、以下のようなものがあります[1, 4]。

  • 食後の不快な満腹感(食後もたれ感):食後に食べたものが胃にいつまでも残り、胃が重く苦しいと感じる状態。
  • 早期満腹感(早期飽満感):お腹は空いているはずなのに、食べ始めるとすぐに満腹になってしまい、十分な量の食事を摂り終えられない状態。
  • みぞおちの痛みや灼熱感:胃のあたりがキリキリ痛んだり、熱く焼けるように感じたりする状態。
  • 胃の膨満感、吐き気、げっぷ:お腹が張っている感覚や、ムカムカする不快感。

健康診断や内視鏡(胃カメラ)検査などで「胃がん」や「胃潰瘍」といった目に見える異常(器質的疾患)が見つからないにもかかわらず、こうした胃もたれや早期満腹感といった症状が慢性的に(目安として6ヶ月以上)続く状態を、医療現場では「機能性ディスペプシアと呼びます。

最新の国際基準である「Rome V基準(2026年公表)」では、この機能性ディスペプシアを、脳と消化管の情報のやり取りがスムーズにいかなくなる「脳腸相関(消化管脳相関)の疾患」として定義・更新し、そのメカニズムの解明を進めています。

一時的な食べ過ぎによる胃もたれであっても、胃の物理的な働きに負荷がかかっているという点では、このディスペプシア症状と密接に関係しています。

なぜ食べ過ぎると胃がもたれるの?

お盆中についつい食べ過ぎてしまった後、なぜ私たちの胃は重くもたれてしまうのでしょうか。それを理解するために、まずは「健康な胃が毎日行っている3つの基本的な働き」をみてみましょう。

【胃の3つの基本的な働き】

  • 受け入れる(適応性弛緩):食べ物が口から入ってくると、胃の上部が柔らかく広がって、一時的に貯留します。
  • 混ぜ合わせる(攪拌・粉砕):胃の蠕動運動によって胃酸や消化酵素としっかり混ぜ合わせ、ドロドロの粥状(かゆじょう)にします。
  • 送り出す(胃排出):粥状になった食べ物を、消化吸収を担当する「十二指腸」へと最適なスピードで少しずつ送り出します。

お盆休みに、焼肉や揚げ物、スイーツなど「高脂肪食(脂っこい食事)」を多く摂ったり、食事が不規則になったり、ビールなどお酒(アルコール)の摂取量が増えたりすると、この3つの働きに大きなブレーキがかかってしまいます。

◆ 脂っこい食事が胃にブレーキをかける仕組み

特に大きな影響を与えるのが「脂質」です。

脂っこい食事が十二指腸の粘膜に到達したことを感知すると、私たちの身体は「コレシストキニン(CCK)」というホルモンを分泌します。

このホルモンは、脂質の消化を助ける胆汁などの分泌を促す一方で、「胃の動きを一時的に緩やかにし、胃排出を遅らせる」というブレーキとしても機能します。脂質は炭水化物やタンパク質に比べて消化に時間がかかるため、このブレーキが長く、強く働き続けることになります。
その結果、食べたものが胃の中に長時間留まり、「胃が重い」「もたれる」という重苦しい不快感が発生するのです。

また、アルコール(お酒)は胃の粘膜への刺激となることがあるとされるほか、脳と腸が神経系を通じて互いに影響を及ぼし合う「脳腸相関」の観点からは、お盆休みの旅行疲れや睡眠不足といった生活リズムの乱れも、胃の運動に影響を与える一因と考えられています。

なお、腸内細菌と脳のつながり(腸脳相関)や、お腹の環境を整えるプレ・プロバイオティクスと消化器全体の健康との関係についても近年非常に多くの研究が進んでいる分野ですが、これらについてはまた別の機会に「腸脳相関」をテーマにした企画で詳しくお届けします。

「胃を休ませる」=絶食ではありません

お盆明けのつらい胃もたれを感じたとき、よく「今日は一日、胃を休ませるために何も食べない(絶食する)ことにしよう」と決めて、極端な断食を行ってしまう方がいます。

しかし、今回のコラムで一番お伝えしたい最重要メッセージは、「胃を休ませる=絶食する、という意味ではない」ということです。

胃を早く回復させようとして完全に食事を抜いてしまうのは、身体にとって以下のような逆効果を招く可能性があります。

  • 基礎代謝の低下:食事を完全に抜くと、脳は身体が「飢餓状態」に陥ったと認識し、基礎代謝を下げてエネルギー消費を抑えてしまいます。
  • 血糖値の急上昇と脂肪蓄積:絶食の後に食事を摂ると血糖値が急上昇しやすくなり、インスリンが過剰に分泌されることで、かえって身体に脂肪を溜め込みやすい状態を作ってしまいます。
  • 消化機能のさらなる低下:食べ物が胃に全く入ってこないと、胃や腸の正常な運動リズムが失われ、かえって元の食生活に戻す際にお腹が張りやすくなったり、胃酸が出過ぎて胃粘膜を痛めたりすることがあります。

したがって、弱った胃をいたわるための正しい「胃の休ませ方」とは、絶食することではなく、「胃にかかる一時的な物理的・化学的負担を下げ、無理のない優しい範囲で、通常の健康的な食生活へと少しずつ戻していくこと」なのです。

【今日からできる、正しい「胃の休ませ方」の実践例】

  • 食事の「1回量」を減らす:食事のボリュームを抑え、腹八分目、あるいは胃が重いときは五分目程度に抑えましょう。お腹が空いたときにだけ口にし、3食きっちり多く食べる必要はありません。
  • 脂っこい高脂肪食やアルコールを控える:胃の排出を遅らせるブレーキを解除するため、唐揚げや天ぷら、バラ肉、洋菓子などを一時的に控え、お酒を飲むのも数日はお休みしましょう。
  • 消化しやすく、温かい食事をゆっくり選ぶ:「おかゆやうどんを食べれば必ず胃もたれが治る」といった食品単位の断定にとらわれる必要はありません。大切なのは調理法と食べ方です。食材は小さく切り、柔らかく煮る、あるいは蒸すなどして脂質を減らし、冷たいものではなく温かいお味噌汁やスープなどを一品加えて胃の血流を助けましょう。
  • よく噛んでゆっくり食べる十分に噛み砕かれていない食べ物は、それだけで胃にとって巨大な物理的負担を強いることになります。よく噛んでゆっくり食べることで、胃の攪拌や粉砕の仕事を大幅に助けることができます。

まとめと次回予告

お盆明けの胃もたれや食欲不振は、単なる一時的な食べ過ぎだけでなく、高脂肪食やアルコールの摂取によって胃の運動機能に一時的なブレーキがかかったり、生活リズムの変化が複雑に影響し合ったりして生じる、身体からの「休ませてほしい」というサインです

弱った胃を立て直すために、極端な絶食に走るのではなく、1回の量を減らし、脂質を避けた温かい食事をよく噛んで食べることから始めてみてください

次回は、今日からできる具体的な「胃の立て直し生活習慣」の実践方法や、胃もたれと胸やけの違い、店頭でよくご相談いただく「食べ過ぎ胃薬」「飲み過ぎ胃薬」「胃もたれ市販薬」などの正しい選び方の考え方、そして「絶対に様子見をしてはいけない医療機関を早期に受診すべき危険なサイン」について、消化器内科・専門医の知見も参考にしながら、分かりやすくお届けします。

胃が重くて薬の選び方に迷ったときや、自分に合う胃のむかつき薬をお探しの際は、どうぞお気軽にご相談くださいね。

参考

1. 日本消化器病学会 編. 「機能性消化管疾患診療ガイドライン2021―機能性ディスペプシア(FD)(改訂第2版)」

2. Qian W, et al. “The Roads of Rome for Functional Dyspepsia: From Rome I to Rome V.” Gut Medicine. 2026;2(2):86–97.

3. 厚生労働省 e-ヘルスネット 「アルコールの吸収と分解」

4. 国立糖尿病・消化器・腎疾患研究所(NIDDK) 「Symptoms & Causes of Indigestion」