前回のおさらい
前回のコラムでは、お盆明けの胃もたれが暑さだけによるものではなく、食事時間の乱れや高脂肪食、飲酒などが重なって胃の働きに影響することがあること、そして「胃を休ませる=絶食ではない」という考え方をご紹介しました。
今回は、今日から実践できる胃の立て直し方法や、正しい胃薬の選び方、受診すべき危険なサインについて解説します。
詳しくはこちら。前回の記事となります。
今日からできる「胃の立て直し」習慣
食べ過ぎや飲み過ぎで疲れた胃の働きを取り戻すため、以下の習慣を段階的に実践してみましょう。
1.食事の「1回量」を減らし、小分けにする
2.脂っこい食事(高脂肪食)を一時的に避ける
3.アルコール(飲酒)を休む
4.規則正しい食事時間を取り戻す
5.睡眠と休息をしっかりと確保する
6.ゆっくり、よく噛んで食べる

胃もたれと胸やけは同じではありません
お腹の不調を感じた際、「胃もたれ」と「胸やけ」を混同していませんか? これらは医学的にはっきり異なる状態であり、適した胃薬の選び方も変わってきます[1, 4]。
胃もたれ(消化不良など)
主に食後に「胃が重苦しい」「いつまでも食べ物が胃の中に残っている」と感じる不快感です。胃の蠕動運動の低下や、食べ物を送り出す排出能の低下が背景にあると考えられています。
胸やけ(酸の逆流など)
胸のあたりが「焼けるように熱い」と感じたり、胃酸がのどまでこみ上げて口の中が酸っぱくなる「呑酸(どんさん)」を指します。胃酸が食道に逆流して粘膜が荒れる「逆流性食道炎」などで見られる症状です。
胃もたれ薬は症状によって選ぶ
ドラッグストアには多くの胃薬が並んでいますが、ご自身の症状に合わないものを選ぶと、期待する効果を感じにくいこともあります。市販薬を選ぶ際は、大きく次の3つの症状パターンで考えると選びやすくなります。
1.食べ過ぎて胃が重苦しいとき
でんぷん・タンパク質・脂質を直接分解する「消化酵素」や、香りや苦味によって胃液の分泌を促し、弱った胃の動きを助ける「健胃生薬」(ケイヒ、ウイキョウ、センブリなど)を含む製品が適しています。
2.お酒の飲み過ぎや胃酸で胃がキリキリ痛み・胸やけがするとき
胃酸を中和する「制酸剤」や、荒れた胃の粘膜を保護・修復する「胃粘膜修復成分」を含む製品が向いています。
3.胃酸の過剰な分泌により胃痛や呑酸が持続するとき
胃酸の分泌そのものを抑える「胃酸分泌抑制薬」(H2ブロッカーなど)が適しています。
どの胃薬を選べばよいか迷う場合は、決して自己判断せず、お気軽に薬剤師までご相談ください。
漢方という選択肢
漢方薬も、胃もたれに対する選択肢のひとつです。胃腸の動きそのものを整えることを目的に使われる処方があります。
たとえば、胃の動きを助け水分の停滞を改善するとされる漢方薬に「六君子湯(りっくんしとう)」があります。
六君子湯は、日本消化器病学会の診療ガイドラインにおいて、胃もたれや早期満腹感が続く「機能性ディスペプシア」に対する一次治療の選択肢として、高いエビデンスレベルとともに掲載されています。
【ここに注意!】安易に「食べ過ぎに六君子湯」は誤りです
ここで非常に重要なのは、この信頼できる医学的エビデンスの対象は「主につらい症状が6ヵ月以上続いているような慢性の機能性ディスペプシア」に対してであるという点です。
お盆明けの一時的な食べ過ぎ・飲み過ぎによる胃もたれとは、不調の原因も病態も異なります。「六君子湯を飲めば食べ過ぎがすぐ治る」と安易に自己判断せず、症状の期間やご自身の体質に合わせた使い分けが必要です。
また、東洋医学の考え方では、暑さによるだるさや一時的な熱疲労(いわゆる夏バテ)に伴う食欲不振には、「清暑益気湯(せいしょえっきとう)」や「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」といった別の処方が選択肢となることもあるとされています。これらは西洋医学的なエビデンスの強さが六君子湯と同一ではないため、体質や症状に応じて漢方に詳しい薬剤師・医師にご相談いただくのが安心です。

【見逃すと危険なサイン】これがあればすぐ受診を
ほとんどの胃もたれは一時的なものですが、なかには胃がん、食道がん、胃・十二指腸潰瘍といった、早期の治療が必要な「重大な消化器疾患」のサインが隠れていることがあります。
以下の症状は、医療現場では注意すべきサインです。
これらが一つでも当てはまる場合は、自己判断で様子を見たり市販薬でごまかしたりせず、すぐに消化器内科などの医療機関を受診してください。
- 黒い便(タール便:胃や十二指腸で出血した血液が胃酸で黒く変色した便)、または血便が出た
- 吐血した、または何度も激しい嘔吐を繰り返す
- ダイエットをしていないのに、意図せず体重が減少した(目安として半年で体重の5%以上)
- 喉や胸に食べ物がつかえる感じがして、スムーズに飲み込めない(嚥下障害・嚥下痛)
- 我慢できないほど強い腹痛や、夜中に痛みで目が覚めるほどの腹痛
- 皮膚や白目が黄色っぽくなってきた(黄疸)
- ご高齢になってから、初めて強い胃もたれや胃痛などの不調を感じるようになった
- 危険な症状はなくても、胃の不快感や食欲不振が2週間以上長引いている
胃がんは初期段階では特有の症状がほとんどなく、ありふれた「胃もたれ」として感じられることが多いため、「いつものこと」と放置しないことが何よりの予防策になります。
その胃もたれ、薬が原因かもしれません
実は、普段から服用しているお薬の影響で、胃の不快感が引き起こされているケースも珍しくありません。
代表的なものとして、痛み止め(ロキソプロフェンなどの「非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉」)が知られています。
薬を飲み始めてから「胃が重くなった」「胃が痛む」と感じた場合は、自己判断で服用を中止せず、お薬手帳を持参のうえ、速やかに処方医または薬剤師にご相談ください。薬が原因となる胃もたれの詳しい種類については、後日お届けするホワイトペーパーで詳しく解説します。
薬局からのメッセージ
お盆が明けたあとの「胃の不調」から体調を正しく回復させるためには、
- 症状の原因をしっかり考える(一時的な食べ過ぎなのか、生活の乱れか、それとも他の要因か)
- 自分に合う、正しい胃薬を選ぶ(症状や目的に合わせた成分選択を行う)
- 長引く場合や危険な兆候がある場合は、速やかに受診する
の3つが何よりも大切です。
普段服用しているお薬が原因かもしれない場合も、自己判断で中断すると持病が悪化する危険があります。お薬の相互作用や飲み合わせ、体質に合った胃薬の選び方まで、少しでも迷うことや気になる胃の不調があれば、いつでもお気軽にご相談ください。私たちは、地域のみなさまが心地よく健康な日々を取り戻せるよう、いつでもお力になります。
参考
1. 日本消化器病学会 編.「機能性消化管疾患診療ガイドライン2021―機能性ディスペプシア(FD)(改訂第2版)」
2. Qian W, et al. “The Roads of Rome for Functional Dyspepsia: From Rome I to Rome V.” Gut Medicine. 2026;2(2):86–97.
3. 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールの吸収と分解」
4. 米国国立糖尿病・消化器・腎疾患研究所(NIDDK)「Symptoms & Causes of Indigestion」
5. 一般社団法人日本東洋医学会 EBM委員会「漢方製剤の記載を含む診療ガイドライン(漢方CPG Table)」
6. 糖尿病ネットワーク「『ゆっくり食べる』ことが糖尿病対策に」

