夏本番となり、厳しい暑さとなりました。
テレビやニュースで「熱中症」という言葉を目にしない日はありません。特に近年は、屋外だけでなく、エアコンが設置されている自宅の室内でも命を落とす方が後を絶たないのをご存知でしょうか。
東京大学と東京都監察医務院が2013~2023年の熱中症死亡事例(約1,450例)を調べた研究では、屋内で亡くなった事例の44.9%はエアコンの電源が切られており、29.4%はそもそもエアコンが設置されていなかったと報告されています。
つまり「エアコンをつけていれば防げたはずの死」が、今も数多く起きているのです。
今回は前編として、「なぜ高齢者は暑さに気づきにくいのか」という体の仕組みと、「就寝中のエアコンの使い方」「風の当て方の工夫」について、薬局からお伝えしたいポイントをまとめました。

1. 高齢者はなぜ「暑さ」に気づきにくいのか
私たちは皮膚の温度センサーで暑さ・寒さを感知し、脳の視床下部にある体温調節中枢へ情報を伝えています。中枢が「暑い」と判断すると、発汗や血流の増加によって熱を逃がす仕組みが働きますが、加齢とともにこの一連の仕組みにいくつかの変化が生じます。
① 温度センサーの感度が鈍る
皮膚の温度センサーの感度が低下し、暑さの情報が脳に伝わりにくくなります。「そんなに暑いと感じない」状態でも、実際には熱中症になりかねない環境に置かれていることがあります。夏季の高齢者の居室温度(就寝時を除く)は、若い世代より2℃ほど高い31~32℃に達しているという報告もあるほどです。
② 汗腺・血流の働きが低下する
加齢により汗腺が小さくなり発汗量が減るほか、皮膚への血流量も減少し、熱を体外に逃がす力そのものが弱まります。さらに、高齢者が若い世代と同程度に汗をかくと脱水状態に陥りやすく、回復にも時間がかかることが報告されています。
③ 「のどの渇き」を感じにくくなる
体内の水分が減ると通常は「のどが渇く」と感じますが、高齢になるとこの察知能力自体が低下します。成人の体内水分量は体重の約60%であるのに対し、高齢者では約50%程度まで低下しているとされ、わずかな発汗でも脱水を起こしやすい体になっています。
薬局からのポイント
「暑さを感じないから大丈夫」は、高齢者にとって最も危険なサインです。
体感に頼らず、居室に温湿度計を置いて「見える化」することが最も確実な予防策です(環境省は室温28℃を目安としています)。
また、利尿作用のある薬剤や降圧薬を服用中の方は、脱水・熱中症のリスクがさらに高まることがあります。
気になる方は、ぜひ薬剤師やかかりつけ医にご相談ください。

2. 就寝中にエアコンを切ってしまうのが危険な理由
「エアコンは体に悪い」「もったいないから寝る前にタイマーで切る」という習慣は、かつての気候を前提とした考え方です。近年の猛暑・熱帯夜が続く環境では、見直しが必要とされています。
三菱電機と睡眠環境プランナーが行った比較実験では、「一晩中つけっぱなし」と「2時間ごとに入り切りを繰り返す」場合を比較したところ、消費電力量はわずかに入り切りの方が低くなるものの、エアコンを切った後は室温が1.5~2.5℃上昇することが確認されました。
さらに、眠っている間は自分で水分補給ができず、めまいや立ちくらみ、しびれといった熱中症の初期症状にも気づけません。就寝中に発症した熱中症は重症化しやすいとの指摘もあります。深部体温は入眠前から睡眠中にかけて約1~1.5℃低下し、これによって深いノンレム睡眠に移行しますが、室温・湿度が下がらないとこの体温低下がうまく進まず、睡眠の質そのものも低下してしまいます。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、夏季の睡眠時は室温26~28℃程度が望ましいとされています。
三菱電機「教えて!霧ヶ峰:『夜間熱中症』に注意!夏のエアコン使用時の快眠環境づくり」 より引用
就寝時のエアコン活用ポイント
- 設定温度の目安は26~28℃。「切る」のではなく、一晩中つけたまま自動運転や弱冷房を活用する
- 電気代が気になる場合は、設定温度を28℃にして朝までつけ、通気性の良い寝具・パジャマを併用する
- どうしてもタイマーを使う場合は、切れるまでの時間を3~4時間以上に設定し、扇風機・サーキュレーターで空気を循環させる
- 特に高齢者・乳幼児のいる寝室では、症状に気づきにくいことを踏まえ「つけっぱなし」を基本にする
3. エアコンの風を「寒く」感じないための工夫
「エアコンの風に当たると体が冷えてだるくなる」という悩みの多くは、設定温度を下げすぎていることや、冷風が体の一点に当たり続けることが原因です。
我慢する必要はなく、風の当て方を工夫することで解決できます。
- 風向きは「自動」または「上向き・水平」に:多くの機種には天井に沿って大風量で吹き出し、部屋全体に空気を循環させる機能が搭載されています。特定の場所だけに強い風が当たり続けることを避けられます。
- サーキュレーター・扇風機を併用する:エアコンと人の間、またはエアコンの対角線上に設置すると、冷風が直接当たるのを防ぎながら部屋全体の温度ムラを減らせます。体感温度が下がるため、設定温度を下げすぎずに済み、節電にもつながります。
- 風よけグッズ・カーテンで直接風を避ける:吹き出し口の風よけカバーやルーバーで冷風を別方向へ誘導したり、ベビーベッドなど風を直接当てたくない場所には通気性のあるカバーを利用するのも一つの方法です。
三菱電機「教えて!霧ヶ峰:『夜間熱中症』に注意!夏のエアコン使用時の快眠環境づくり」 より引用
薬局からのポイント
「寒いから消す」のではなく、風向き・風量・気流の作り方を変えることが正しい対処法です。
冷えが気になる方は、設定温度を下げるのではなく、薄手の羽織りものや靴下で局所を保温しながら室温は適温を保ちましょう。暑いからと服を着ないでいると、かえって体温調節を難しくしてしまうこともあります。
次回の後編では、「赤ちゃん・お子さまのためのエアコンの使い方」「電気代を抑えながら安全に冷房を使うコツ」、そして「電気代の節約」と「熱中症による経済的な負担」を実際の費用で比較しながらご紹介します。
何かご不安な点がありましたら、お気軽に凜調剤薬局までご相談ください。


